中島康
東京医療減災Labo
災害は計画通りには進まない。刻々と変化する状況を観察し、判断し、行動する——これがOODAループだ。
Observe(観察):現場で何が起きているか?被災状況、利用可能な資源、スタッフの状態を観察する。情報収集ではなく、「今、ここ」の状況把握。
Orient(方向づけ):観察した情報を解釈し、何が重要かを判断する。過去の経験、マニュアル、訓練の記憶を総動員して「次に何をすべきか」の方向性を定める。
Decide(判断):複数の選択肢から、今この瞬間に最適な行動を決める。完璧な判断を待たない。6割の情報で決断する。
Act(行動):決めたことを実行する。そして再び観察(Observe)に戻る。このループを高速で回すことが、災害対応力だ。
訓練中、参加者に問いかける:「今、何が見えていますか?」「次に何をしますか?」「なぜそう判断しましたか?」——これがOODAの訓練だ。
PDCAのように年単位で計画を立てるのではなく、訓練の最中、その場その場で「観察→判断→行動」を繰り返す体験こそが、本番での対応力を育てる。
失敗体験はできればしたくない。しかし、成人学習において、失敗は最も強力な学習機会となる。訓練企画者の役割は、「安全な環境で失敗できる場」を作ることだ。
もう一つ重要なのは、訓練参加者の立ち位置を「訓練を受ける人」から「組織のシステムの評価者」に変化させることだ。失敗を通じて、組織の仕組みそのものを見直す視点を養う。
訓練で得た気づきや改善点を記録に残す。写真、メモ、振り返りシートなどなど形式は問わない。
記録があることで、次回の訓練がより良くなる。そして、その記録を他の部署や施設と共有することで、「一緒に学ぶ仲間」が増えていく。
一人で頑張るのではなく、チームで、組織で、地域で育てる。これが、持続可能な災害対応力向上の鍵だ。
訓練の目的は多様だ。「初動対応の習熟」「役割分担の確認」「課題の発見」「チームビルディング」など、何を目指すかで訓練の設計は変わる。
目的を明確にすることで、何を測定し、何を改善するかが見えてくる。参加者にも目的を共有することで、主体的な参加を促せる。
訓練を実施すると、事前には想像できなかった課題が見えてくる。計画に固執せず、現場の気づきを次の訓練に反映させる。
年間訓練計画は「ガチガチに固めるもの」ではなく、「方向性を示すもの」。実施しながら調整していく柔軟性が、実効性を高める。
訓練は、参加者が「やってよかった」「次もやりたい」と思えることが大切。
できなかったことを責めるのではなく、「今日の気づき」「次に試したいこと」を共有する。小さな成功を認め合うことで、次への意欲が生まれる。
「失敗は学びのチャンス」という文化を、訓練の振り返りから作っていく。
完璧を目指すと、使う前に力尽きる。6〜8割の完成度で使い始めることで、実際の課題が見えてくる。理論上の完璧さより、現場で使える実用性を優先する。
「使いながら改善する」という文化が、組織の適応力を高める。最初から完璧を求めないことで、心理的ハードルが下がり、多くの人が参加しやすくなる。
アクション・カードは「初期行動の事前指示書」。役割ごとに「最初の3〜5分でやること」を具体的に書く。
カードがあることで、「何をすればいいか分からない」状態から脱却できる。訓練でカードを使い、改善し、実用レベルに高めていく。
完璧を目指さない。6割できたら使い始め、現場で育てる。これが、実践につながる秘訣だ。
人を集めない:大規模な参加者を集める必要はない。数人から始められる訓練設計を心がける。
時間をかけない:長時間の拘束は継続の敵。10分程度で完結する訓練を繰り返す。
評価しない:他者評価で優劣を開示しない。個人の点数化や順位付けをしないことで、心理的安全性を確保する。一方で、自己評価による「まだできていない」「もっとできる」という気づきは、改善や協力への主体的な行動を促す。
1回目:失敗の体験、課題の発見
2回目:手順の確認、チームビルディング
3回目:精度の向上、自信の獲得
「つまずいたら、ストップして、その場で改善し、もう一度」——この即座の改善サイクルが、本当の習熟を生む。
原則2:失敗から学ぶ
失敗を「観察」することで、何が起きているかを正確に把握する力を養う。失敗は最高の観察対象だ。
原則3:記録を残し、仲間を増やす
訓練で「観察」したことを記録に残し、次の観察に活かす。記録は観察力の蓄積である。
原則4:目的の明確化
「何のための訓練か」を明確にすることは、Orient(方向づけ)そのもの。目的が方向性を定める。
原則5:訓練しながら計画を考える
固定された計画ではなく、状況に応じて方向性を調整する。これがOrient(方向づけ)の柔軟性だ。
原則6:前向きに終わる訓練
「次はもっとできる」という前向きな方向づけが、継続的な成長を生む。
原則7:6〜8割の完成度で使う
完璧を待たずに判断する。不完全な情報でも決断する力を訓練する。
原則8:アクション・カードで具体化
混乱の中でも迷わず判断できるよう、判断基準を具体化する。カードは判断を支援するツールだ。
原則9:3ない訓練
人を集めない、時間をかけない、評価しない——すぐに「行動」できる訓練。行動のハードルを下げる。
原則10:3回の出だし訓練
行動を繰り返し訓練することで、体が自然に動くようになる。反復が行動力を生む。
原則1:OODAループ
観察→方向づけ→判断→行動のサイクルを高速で回す。これが災害対応力の本質だ。