訓練企画10原則

PDCAにさよなら、OODAでいこう
状況認識を鍛える実効性ある訓練の作り方

中島康

東京医療減Labo

従来の常識を覆す10の原則
20年の実践から生まれた方法論
2025年版 (Version 2.0)
原則 1
状況適応
PDCAにさよなら、
OODAでいこう
従来
計画重視のPDCA
中島メソッド
状況認識のOODA
災害対応に必要なのは、
計画力ではなく、状況認識力だ

OODAループ:災害対応に最適な思考法

災害は計画通りには進まない。刻々と変化する状況を観察し、判断し、行動する——これがOODAループだ。

OODAの4ステップ

Observe(観察):現場で何が起きているか?被災状況、利用可能な資源、スタッフの状態を観察する。情報収集ではなく、「今、ここ」の状況把握。

Orient(方向づけ):観察した情報を解釈し、何が重要かを判断する。過去の経験、マニュアル、訓練の記憶を総動員して「次に何をすべきか」の方向性を定める。

Decide(判断):複数の選択肢から、今この瞬間に最適な行動を決める。完璧な判断を待たない。6割の情報で決断する。

Act(行動):決めたことを実行する。そして再び観察(Observe)に戻る。このループを高速で回すことが、災害対応力だ。

訓練での実践

訓練中、参加者に問いかける:「今、何が見えていますか?」「次に何をしますか?」「なぜそう判断しましたか?」——これがOODAの訓練だ。

PDCAのように年単位で計画を立てるのではなく、訓練の最中、その場その場で「観察→判断→行動」を繰り返す体験こそが、本番での対応力を育てる。

原則 2
学習の本質
失敗から学ぶ
従来
訓練では成功を体験する
中島メソッド
失敗から学び、組織のシステムを評価する
訓練で失敗しないことが、
本番での失敗を生む

失敗体験の設計

失敗体験はできればしたくない。しかし、成人学習において、失敗は最も強力な学習機会となる。訓練企画者の役割は、「安全な環境で失敗できる場」を作ることだ。

もう一つ重要なのは、訓練参加者の立ち位置を「訓練を受ける人」から「組織のシステムの評価者」に変化させることだ。失敗を通じて、組織の仕組みそのものを見直す視点を養う。

原則 3
継続と拡大
記録を残し、仲間を増やす
従来
訓練して終わり
中島メソッド
記録を残し、次に活かし、仲間を増やす
記録がなければ、
訓練の学びは消えてゆく

記録と共有

訓練で得た気づきや改善点を記録に残す。写真、メモ、振り返りシートなどなど形式は問わない。

記録があることで、次回の訓練がより良くなる。そして、その記録を他の部署や施設と共有することで、「一緒に学ぶ仲間」が増えていく。

一人で頑張るのではなく、チームで、組織で、地域で育てる。これが、持続可能な害対応力向上の鍵だ。

原則 4
方向性
目的の明確化
従来
「訓練をすること」が目的化
中島メソッド
「何のための訓練か」を明確にする
目的が明確でない訓練は、
ただの儀式になる

目的設定の重要性

訓練の目的は多様だ。「初動対応の習熟」「役割分担の確認」「課題の発見」「チームビルディング」など、何を目指すかで訓練の設計は変わる。

目的を明確にすることで、何を測定し、何を改善するかが見えてくる。参加者にも目的を共有することで、主体的な参加を促せる。

原則 5
柔軟性
訓練しながら計画を考える
従来
事前に詳細な計画を立てる
中島メソッド
やりながら次の一手を考える
机上で考えた計画より、
現場で見つけた課題が重要

適応的な計画

訓練を実施すると、事前には想像できなかった課題が見えてくる。計画に固執せず、現場の気づきを次の訓練に反映させる。

年間訓練計画は「ガチガチに固めるもの」ではなく、「方向性を示すもの」。実施しながら調整していく柔軟性が、実効性を高める。

原則 6
心理的安全性
前向きに終わる訓練
従来
できなかったことを指摘して終わる
中島メソッド
「次はもっとできる」と思える振り返りで終わる
訓練後の気持ちが、
次の訓練への意欲を決める

前向きな振り返り

訓練は、参加者が「やってよかった」「次もやりたい」と思えることが大切。

できなかったことを責めるのではなく、「今日の気づき」「次に試したいこと」を共有する。小さな成功を認め合うことで、次への意欲が生まれる。

「失敗は学びのチャンス」という文化を、訓練の振り返りから作っていく。

原則 7
実用主義
6〜8割の完成度で使う
従来
完璧に作り込んでから使う
中島メソッド
6〜8割の完成度で使い、現場で育てる
完璧を待つより、
不完全でも始める方が強くなる

完璧主義からの脱却

完璧を目指すと、使う前に力尽きる。6〜8割の完成度で使い始めることで、実際の課題が見えてくる。理論上の完璧さより、現場で使える実用性を優先する。

「使いながら改善する」という文化が、組織の適応力を高める。最初から完璧を求めないことで、心理的ハードルが下がり、多くの人が参加しやすくなる。

原則 8
具体化ツール
アクション・カードで具体化
従来
分厚いマニュアルを作る
中島メソッド
1枚のカードに、今すぐやることを書く
分厚いマニュアルは使われない
1枚のカードなら動ける

アクション・カードの力

アクション・カードは「初期行動の事前指示書」。役割ごとに「最初の3〜5分でやること」を具体的に書く。

カードがあることで、「何をすればいいか分からない」状態から脱却できる。訓練でカードを使い、改善し、実用レベルに高めていく。

完璧を目指さない。6割できたら使い始め、現場で育てる。これが、実践につながる秘訣だ。

原則 9
ハードルを下げる
3ない訓練
従来
多くの人を集め、長時間かけて、評価する
中島メソッド
人を集めない、時間をかけない、評価しない
訓練のハードルを下げて、
継続的な改善サイクルを回す

3ない訓練の具体的な実践

人を集めない:大規模な参加者を集める必要はない。数人から始められる訓練設計を心がける。

時間をかけない:長時間の拘束は継続の敵。10分程度で完結する訓練を繰り返す。

評価しない:他者評価で優劣を開示しない。個人の点数化や順位付けをしないことで、心理的安全性を確保する。一方で、自己評価による「まだできていない」「もっとできる」という気づきは、改善や協力への主体的な行動を促す。

原則 10
反復学習
1回の通し訓練より
3回の出だし訓練
従来
全体を1回流して、理解したつもりを体験する
中島メソッド
対応の出だしを3回訓練して、スタートダッシュを身に付ける
人が成長するためには
何回も繰り返すことが大切。
3回で訓練効果が高まる

3回繰り返しの意味

1回目:失敗の体験、課題の発見

2回目:手順の確認、チームビルディング

3回目:精度の向上、自信の獲得

「つまずいたら、ストップして、その場で改善し、もう一度」——この即座の改善サイクルが、本当の習熟を生む。

10原則のまとめ

1. OODAループ — 状況を観察し、判断し、行動する
2. 失敗から学ぶ — 安全な環境で失敗し、学ぶ
3. 記録を残し、仲間を増やす — 学びを共有し、仲間を増やす
4. 目的の明確化 — 何のための訓練かを明確に
5. 訓練しながら計画を考える — 柔軟に調整していく
6. 前向きに終わる訓練 — 次への意欲を生む振り返り
7. 6〜8割の完成度で使う — 完璧を待たず、使いながら改善
8. アクション・カードで具体化 — 1枚のカードに初期行動を
9. 3ない訓練 — 人を集めない、時間をかけない、評価しない
10. 3回の出だし訓練 — 繰り返しでスタートダッシュを身につける
これらの原則は、単独では機能しない。
全てが揃って、初めて実効性ある訓練になる。
訓練は、完璧を目指すものではない。だから訓練企画も完璧を目指さなくていい。
「今できることから始める」「失敗から学ぶ」「使いながら育てる」——この姿勢が、害対応力を本当に高める。

10原則とOODAループの関係性

訓練企画10原則は、すべてOODAループの実践につながっている。各原則がOODAのどの要素を強化するのか、その関係性を明らかにする。

🔍 Observe(観察)を鍛える原則

原則2:失敗から学ぶ
失敗を「観察」することで、何が起きているかを正確に把握する力を養う。失敗は最高の観察対象だ。

原則3:記録を残し、仲間を増やす
訓練で「観察」したことを記録に残し、次の観察に活かす。記録は観察力の蓄積である。

🧭 Orient(方向づけ)を鍛える原則

原則4:目的の明確化
「何のための訓練か」を明確にすることは、Orient(方向づけ)そのもの。目的が方向性を定める。

原則5:訓練しながら計画を考える
固定された計画ではなく、状況に応じて方向性を調整する。これがOrient(方向づけ)の柔軟性だ。

原則6:前向きに終わる訓練
「次はもっとできる」という前向きな方向づけが、継続的な成長を生む。

⚡ Decide(判断)を鍛える原則

原則7:6〜8割の完成度で使う
完璧を待たずに判断する。不完全な情報でも決断する力を訓練する。

原則8:アクション・カードで具体化
混乱の中でも迷わず判断できるよう、判断基準を具体化する。カードは判断を支援するツールだ。

🚀 Act(行動)を鍛える原則

原則9:3ない訓練
人を集めない、時間をかけない、評価しない——すぐに「行動」できる訓練。行動のハードルを下げる。

原則10:3回の出だし訓練
行動を繰り返し訓練することで、体が自然に動くようになる。反復が行動力を生む。

🔄 OODA全体を回す原則

原則1:OODAループ
観察→方向づけ→判断→行動のサイクルを高速で回す。これが災害対応力の本質だ。

訓練企画は、OODAループを体で覚える場である。

関連資料

理念編 (Why)
害対応力向上研修 哲学五箇条
戦略編 (What & Evidence)
→ 動ける60点 > 動けない100点
体系全体
→ 東京医療減Labo 実践知の体系
訓練企画10原則
2025年版 (Version 2.0)
著者: 中島 康
東京医療減Labo
©HDMG2004 2025
CC BY-NC-SA 4.0
tbk_gensai_labo@tmhp.jp
目次
表紙 原則1: OODAループ 原則2: 失敗から学ぶ 原則3: 記録を残し、仲間を増やす 原則4: 目的の明確化 原則5: 訓練しながら計画を考える 原則6: 前向きに終わる訓練 原則7: 6〜8割の完成度で使う 原則8: アクション・カードで具体化 原則9: 3ない訓練 原則10: 3回の出だし訓練 10原則のまとめ 10原則とOODAループの関係性 奥付・関連資料